社会ジェンダーインタビュー
「女性ばかりに自衛を求めるのはもう限界」
若年女性の性被害、社会学者・佐藤香織氏が訴える“男性側への規制強化”
若い女性が巻き込まれる売買春や、不同意性交をめぐる問題が後を絶たない。
SNSやマッチングアプリの普及によって、見知らぬ男女が簡単につながれるようになった一方、経済的に不安定な若い女性が金銭を介した性的関係に巻き込まれたり、明確な同意のないまま性的行為を求められたりするケースも問題視されている。
こうした状況について、社会学者でフェミニストの佐藤香織さんは「これまで日本社会は、あまりにも女性側にばかり自衛を求めてきた」と批判する。
「女性に『気を付けろ』と言い続けるだけでは何も変わらない。むしろ今必要なのは、買う側、求める側、加害する側の行動を制限することです」
若年女性を取り巻く性産業、不同意性交、AVをめぐる問題について、佐藤さんに話を聞いた。
社会学者・佐藤香織さん――若い女性による売春や、いわゆる「パパ活」などについてどう見ていますか。
「日本では女性が売春をすると、すぐに『本人の自己責任だ』『楽して稼ごうとしたからだ』という話になりがちです。でも、買う男性がいなければ市場は成立しません。
売る女性だけを問題にして、買っている男性の存在をほとんど語らないのはおかしいと思います」
佐藤さんは、日本の性をめぐる議論には「男性側の需要を当然視する傾向」が根強く残っていると指摘する。
「若い女性をお金で買おうとする大人の男性がいる。それなのに『若い女性が危険な世界に入らないように教育しましょう』だけで終わる。
なぜ男性側には『若い女性を金で買うな』と、もっと強く言わないのでしょうか」
女性の行動を制限するのではなく、買い手側への罰則や捜査、啓発を強化するべきだという。
「海外と比べ、日本は男性側への規制が弱すぎる」
佐藤さんが問題視するのは、日本社会に残る「男性の性的欲望はある程度仕方がない」という空気だ。
「海外の一部では、売る側より買う側の責任を重く見る制度や考え方があります。一方、日本では性的サービスを買う男性について、非常に寛容な面がある。
風俗に行く、若い女性を金で買う、女性を性的に消費する。それを『男ならそういうこともある』という雰囲気で済ませてきた部分があると思います」
佐藤さんは「日本の男性個人がすべて問題だという話ではない」としながらも、男性側の行動を許容してきた社会については厳しく批判する。
「女性には服装から帰宅時間、飲酒、交友関係まで注意を求める。その一方で、男性には『他人の身体を性的に利用しないでください』という最低限のことさえ強く教育してこなかった。
このバランスは明らかにおかしいです」
女性側の自由を制限するより、性的な行為を求める側の責任を強くするべきだという。
「女性側の行動を制限するだけでは問題は解決しない」と話す佐藤さん――不同意性交についてはどうでしょう。
「性被害が起きると、今でも『なぜ逃げなかったのか』『なぜ部屋に行ったのか』『なぜ酒を飲んだのか』と女性側の行動を検証する声が出ます。
でも本来確認しなければならないのは、男性側がきちんと同意を取ったのかという一点です」
恐怖や混乱によって、被害者が明確な拒絶をできない場合もある。
「『嫌と言われなかった』を同意だと解釈する文化を終わらせる必要があります。
性的な行為を求める側が、相手の積極的な意思を確認する。その責任をもっと重くするべきです」
佐藤さんは、学校教育だけでなく、企業研修や大学教育などでも同意について繰り返し教える必要があると話す。
「女性に断り方を教える前に、男性に確認の仕方を教えるべきです」
男性側への規制を具体的に強くするべき
「そうです。
売買春については、買い手側への罰則や摘発を強化する議論が必要ですし、未成年や若年女性を対象とした性的な勧誘についても、購入者や仲介者をより厳しく見る必要があります。
性犯罪についても、被害者が必死になって『拒否した証拠』を出す構造ではなく、行為を求めた側が相手の意思を確認したかを重視する社会にすべきです」
佐藤さんは「女性の生活を制限するより男性側の行動を制限する方が合理的だ」と話す。
「女性に夜出歩くなと言うなら、なぜ男性に女性を追い回すなと言わないのか。
女性に知らない男性についていくなと言うなら、なぜ男性に経済力を使って若い女性を性的に買うなと言わないのか。
今まで順番が逆だったと思います」
「女性に自衛を求めるだけでは加害側の行動は変わらない」と指摘する佐藤さんAVにも「女性を消費する構造」
佐藤さんは、AVを含む成人向けコンテンツについても厳しい見方を示す。
「成人同士が十分な説明を受け、自由意思で参加する表現活動まで一律に否定するつもりはありません。
ただ、日本のAVをめぐっては、女性の身体を男性の欲望を満たす商品として扱う視点が非常に強いと感じます」
問題は作品そのものだけではないという。
出演契約、撮影内容、映像の二次利用、インターネット上で半永久的に残り続ける動画など、出演者が背負うリスクは小さくない。
「撮影した瞬間は本人が同意していたとしても、その映像が何年後まで使われるのか、どこまで拡散されるのかは別問題です。
一度世の中に出てしまえば、本人が人生を変えたいと思っても簡単には消せない。そのリスクを出演者だけに背負わせるべきではありません」
さらに、AVが若い男性の性認識に与える影響にも注意が必要だとする。
「作品は演出されたフィクションです。しかし、それを現実の性行為の教科書のように受け取る人もいます。
女性は強引に迫られることを喜ぶ、最初は嫌がっていても最後には受け入れる、といった演出を現実の人間関係に持ち込めば非常に危険です」
AVなど成人向けコンテンツについて、年齢確認や制作側の責任、出演者保護、同意表現などのルールをより強化していく必要があると話す。
「男性の欲望を女性が引き受ける」という発想を変える
佐藤さんが繰り返すのは、性をめぐる問題の解決を女性側に押し付けてはいけないという点だ。
「これまで女性は、『危険な場所に行くな』『短いスカートを履くな』『酒を飲みすぎるな』『知らない男性についていくな』と、延々と言われてきました。
でも、それは女性の自由を狭くしているだけです」
必要なのは、他人の身体にアクセスしようとする側に、より大きな責任を負わせることだという。
「買春する側、性的行為を要求する側、映像を作り消費する側。
こうした側の責任をもっと厳しく問う必要があります。
男性の性的欲望は仕方がない、だから女性が気を付けるしかない、という発想自体を変えなければいけません」
男性全体を犯罪者のように扱うこととは違うとも佐藤さんは強調する。
「規制すべきなのは男性という属性ではなく、他人の性的自己決定権を侵害する行動です。
ただ、その行動をする側に男性が多い問題についてまで、『男女どちらも同じです』と言ってしまえば、問題の構造は見えなくなる。
女性ばかりに自衛を求めてきた社会から、行為を求める側に責任を求める社会へ変えるべきです」
性被害や性的搾取の防止という言葉が、女性の行動を縛るために使われてはいけない。
女性に「どう被害を避けるか」を問い続けるのではなく、男性を含む行為者側に「なぜ相手の意思を無視してはいけないのか」を徹底して問う。
佐藤さんは、それこそが日本の性を取り巻く状況を変えるために必要な転換だと話している。
佐藤香織
社会学者
専門はジェンダー論と労働社会学。若年女性の貧困や性暴力をめぐる調査に長く携わり、支援団体とも連携して政策提言を続けている。